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余命宣告

2009.6.20 ②

眠りかけては吐き気で目を覚ます、そんな地獄のような時間を過ごしながら迎えた朝。

私も子供を一人産んでいますから、つわりだとか陣痛だとかの苦しみはとてもよく知っています。
それでも、終わりの見える苦しみであった分、今よりもずっとずっと楽でした。
何より、赤ちゃんという新しい生命に会えるという、夢や希望がありました。

でも、今回は違いました。
いつまでこの苦しみが続くのか、誰にもわかるはずもなく。
ひょっとしたら苦しみが消えるそのときは、同時に私という生命が消えることを指すかもしれないのです。
漠然とした不安だけが重くのしかかり、のどの奥の激しい痛みと、突き上げる吐き気が、私をひたすら苦しめるだけでした。

効いているのか効いていないのかわからない睡眠薬でしたが、それでも少しは眠れていたようで、はっと気がつくといつも、からだじゅう、じっとりと汗ばんでいました。
ただ、やっと眠ったときにも、なんべんも看護師さんが体温と血圧を測りに来てくれていたのを覚えています。
聞こえてくる会話では、血圧はずいぶんあがっていました。体温ももちろんあがっていました。
私は平均して90/45程度の血圧なのですが、このときは130とか言っているのが聞こえました。
体温は、38℃ちょっとの数字を何度か言っていた気がします。

起床時間を過ぎて、看護師さんが「氷枕をお持ちしましょうか」とか「吐き気はまだ強いですか、吐き気止めはまた使いますか」とか聞いてくれました。
ただ私は、異物がずっと入ったままののどの奥が痛むので、何かしゃべる気にはなれませんでした。
首を少し振ったり、うなずいたり、それだけが私の意思表示でした。

口には酸素用のマスクがあてがわれていましたが、私は逆に鬱陶しくて勝手に外してしまっていたようです。でも、ひどい貧血の割に、酸素飽和度は充分のようでした。
そのため、マスクは朝すぐに外されました。
鼻のチューブを圧迫して、私がさらに不快な表情を見せていたからだと思います。

そろそろ輸血も終わりのようです。
血の入ったパックの隣に並んでいた、よくわからないパックは、吐き気止めだったようです。
さっき吐き気止めを「使う」という意思表示をしたせいか、空っぽだったものから新しいパックに交換されました。
それを知った途端、吐き気止めが効いていてなおかつこんな状態だったのかと、がっかりしました。
もはやあのパックには、プラセボ効果すら期待できないことでしょう。

そうこうするうちに、主治医の先生が回診に回って来ました。
チームのみんなと合わせて4人で来られました。

先生は、まずは鼻から出たチューブと、その先にぶらさがっているドレーンバックを見て、
「出血が減ればこのチューブは外れますからね、もうちょっと我慢して下さいね」
と言いました。
そして、続けてこう言いました。

「前にお話しましたけどね、やはり肝機能がとても落ちているんですよねえ。
なんというか、肝臓をフィルターに例えると、目が詰まっちゃってる状態なんですよね。
普段、身体の中の血から栄養を受け取ったり、身体の中の毒素を綺麗にしたりする役目を果たしてるんですがね、それがもう、間に合わない状態になっているんです。
内臓全体に癌が広がっていますから、かなり肝臓に負担がかかってますし、もちろん肝臓そのものも癌で傷んでいるんですよ。
でも、身体の血液は容赦なく肝臓に流れ込もうとするわけなんですよ。
それで、CT検査でも見えてるんですがね、血液はなんとかして肝臓に入ろうとして、迂回路を形成していました。おびただしい数の血管が、ふくれあがっている状態です。
でも、結局はそれらの血液は肝臓に入っていけないわけですから、どんどん膨れ上がっていくしかないわけです。
それで今回、何かほんのちょっとした刺激が加わって、内臓を走るそのふくれあがった状態の血管が、切れたんでしょうね。
全部が切れたわけではないと思いますし、今回かなりの量の出血があったせいで、たまってた血液がだいぶ外に出ましたから、今は鬱血も減って落ち着いてると思います。
ですが、いつまたこういう大出血があるかわかりませんし、この出血も、止まるかどうかわかりません。」

私は、うんうんとうなずきながら、先生の話を聞いていました。
もしかしたらずっとこのチューブが抜けないのかもしれないと思うと、涙が出そうにもなりました。
でも、先生の最後の言葉で、涙は出ずに済みました。
いえ、出ずに済んだというより、ショックで涙が出なくなってしまいました。

先生は私に、こう言ったのです。

「○○さん、私たちもこれまで色々治療して来ましたが、もうこれ以上打つ手はありません。それでは、失礼します」




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