母 ~2~
2009.6.23
朝の回診時、ついに鼻のチューブを抜いても良いと診断されました。
鼻から伸びた部分から出ている液体も、すでに透明になっていました。
抜くときは、息を止め、吐き気が起きにくいようにします。
固定用のガムテープのようなものを頬からはがされ、ヌルヌルと管を抜かれます。
大きく深呼吸。
拷問器具からの解放です。
あまりの快感から、涙が出ました。
のどはまだひりひりと痛みますが、はじめて言葉を口にすることができました。
「ありがとうございます…」
母親に、メモ用紙がなくなりそうだから買ってくれないかと頼んでいましたが、それも不必要になりました。
母は、昨日から「まだ死なないだろう」と判断したのか、私のマンションへと帰っています。
今日は昼下がりに病院に様子見に来ました。
病室に入って私の顔をみました。
チューブがはずれているのは一目瞭然のはずなのに、「メモ帳まだあんの?」などと聞いてきました。
「喋れるからもういらない」、とはっきりした声で返しました。
「ふうん…血まだ止まってないんじゃないの?
また吐き気したら管また入れられるんだから、覚悟はしておきなさいよ。
私ご飯食べてくる。あんたの子供の晩御飯作ってきたせいで、お昼まだだから。
じゃあね」
そう言って、つかつかとデイルームへと向かいました。
チューブを抜かれてからは少しバタバタとしていましたが、このあと、やっとのことで眠れました。
吐き気などまったく起きませんでした。つくづく、あのチューブに意味はあったのか、疑問です。
全身の筋肉が疲労していましたが、すっかり脱力できて、それこそぐったりと眠ることができました。
まだ、指先や胸、尿道、両腕に色々な管がついていますが、あのたったひとつのチューブが抜けただけで、もう何もかもから解放されたような気持ちでした。
看護師さんが3時半頃に定時の検温に来たとき、軽く目が覚めました。
母はソファに座って、病院が貸し出している文庫本を読んでいました。
血圧測定も終わって看護師さんが出て行くと、母は帰る準備をはじめました。
母は、こう言いました。
「あんたがすぐ死ぬかもしれないって、先生があんまり急かすせいで、
中国語の勉強道具忘れてきちゃったんだよね。
でもまだしぶとく生きてるし、小説読むだけしかできないなら時間もったいないし…
教科書とか取りに青森帰ろうかな、いったん」
あまりにも憎らしげに言うものだから、私は、静かに目を閉じて、またすぐに眠ってしまったフリをしなければなりませんでした。
「もう、続きを言っても聞こえていない」と思ってもらえなければ、さらに長々とイヤミを言われ続けるだろうと思ったからです。
母は軽くため息をついて、病室を出ていきました。
私は、閉じた目から涙が溢れるのを、止めることができませんでした。
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朝の回診時、ついに鼻のチューブを抜いても良いと診断されました。
鼻から伸びた部分から出ている液体も、すでに透明になっていました。
抜くときは、息を止め、吐き気が起きにくいようにします。
固定用のガムテープのようなものを頬からはがされ、ヌルヌルと管を抜かれます。
大きく深呼吸。
拷問器具からの解放です。
あまりの快感から、涙が出ました。
のどはまだひりひりと痛みますが、はじめて言葉を口にすることができました。
「ありがとうございます…」
母親に、メモ用紙がなくなりそうだから買ってくれないかと頼んでいましたが、それも不必要になりました。
母は、昨日から「まだ死なないだろう」と判断したのか、私のマンションへと帰っています。
今日は昼下がりに病院に様子見に来ました。
病室に入って私の顔をみました。
チューブがはずれているのは一目瞭然のはずなのに、「メモ帳まだあんの?」などと聞いてきました。
「喋れるからもういらない」、とはっきりした声で返しました。
「ふうん…血まだ止まってないんじゃないの?
また吐き気したら管また入れられるんだから、覚悟はしておきなさいよ。
私ご飯食べてくる。あんたの子供の晩御飯作ってきたせいで、お昼まだだから。
じゃあね」
そう言って、つかつかとデイルームへと向かいました。
チューブを抜かれてからは少しバタバタとしていましたが、このあと、やっとのことで眠れました。
吐き気などまったく起きませんでした。つくづく、あのチューブに意味はあったのか、疑問です。
全身の筋肉が疲労していましたが、すっかり脱力できて、それこそぐったりと眠ることができました。
まだ、指先や胸、尿道、両腕に色々な管がついていますが、あのたったひとつのチューブが抜けただけで、もう何もかもから解放されたような気持ちでした。
看護師さんが3時半頃に定時の検温に来たとき、軽く目が覚めました。
母はソファに座って、病院が貸し出している文庫本を読んでいました。
血圧測定も終わって看護師さんが出て行くと、母は帰る準備をはじめました。
母は、こう言いました。
「あんたがすぐ死ぬかもしれないって、先生があんまり急かすせいで、
中国語の勉強道具忘れてきちゃったんだよね。
でもまだしぶとく生きてるし、小説読むだけしかできないなら時間もったいないし…
教科書とか取りに青森帰ろうかな、いったん」
あまりにも憎らしげに言うものだから、私は、静かに目を閉じて、またすぐに眠ってしまったフリをしなければなりませんでした。
「もう、続きを言っても聞こえていない」と思ってもらえなければ、さらに長々とイヤミを言われ続けるだろうと思ったからです。
母は軽くため息をついて、病室を出ていきました。
私は、閉じた目から涙が溢れるのを、止めることができませんでした。
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